源内先生の登場する創作物。


 源内をモチーフにした小説・マンガ・ドラマはたくさんあります。
 私が見聞きしたことがあるものを中心に、紹介します。

『平賀源内』/桜田常久 ・・・昭和15年芥川賞作品。
 現実に源内の墓は江戸と故郷の他に、静岡にも有ります。「源内は牢を抜けて相良で暫く生きた」という伝説を元にした小説です。
 身元を隠して静かに生きる源内ですが、地域の流行り病を助ける為に、身元がわかることを承知で医療活動をします。
 非常に美談です。美談ですが、どう考えてもこの相良の人は性格的に源内ではありません(笑)。
 玄白が治療を施すシーンは迫力があって読みごたえがありました。

『表裏源内蛙合戦』/井上ひさし/新潮文庫 ・・・1970年(大阪万博の年)のテアトル・エコーの芝居の戯曲本
 万博の年ってことで、この時代には源内が多少話題になりました。
 戯作者・源内の作品を読んだことがあると、この芝居の二重三重になった構造の面白さに気付くでしょう。
 源内の性描写はかなり露骨です(言いたいことはエロでないのですけどね)。また、彼の「源内ぶり」と言われた、たたみかけるようなみごとな描写が有名でした。それらを踏まえた作りになっています。
 ストーリーは、源内が出世と倫理観の板挟みになって、やがて狂っていくという感じで、やはり時代を感じさせます。
 芝居の初演では表源内に故・山田ルパ〜ン康雄氏、裏源内に熊倉一男氏だそうで。山田源内、見てみたかった。再演では安原義人さんも演ったとか。

『天下御免』/早坂暁ほか/大和書房 ・・・1971年NHKで放送されたドラマの脚本集。1985年発行
 上記のテアトル・エコーの芝居はかなり話題になったようです。万博の翌年、NHKでは源内主役のドラマが。
 金曜時代劇は、前年が吉宗、そのまた前年が鞍馬天狗。源内の翌年が赤ひげ。ですからこの源内がいかに特殊だったかがわかると思います。
 ファンから再放送やビデオ化の要望は強かったものの、ドラマのVTRはNHKには残っていないので、「脚本集」という形で出版されたそうです。
 ドラマの方は、業績や史実をとてもうまく絡めてあり、娯楽性の強い楽しい作品でしたが、強い批判性も持ち合わせて現代の日本を憂い、源内の戯作の精神を彷彿とさせます。
 史実では資金不足で実現できなかった気球、ドラマ最終回はその気球に乗ってフランスへ渡り、フランス革命に係わるというステキなものです。このラストを選んだ早坂さんに、源内のファンとして心から感謝しています。

『びいどろで候−長崎屋夢日記』/早坂暁/日本放送出版協会・・・1990年NHKで放送されたドラマの脚本集。
 13回1クールの娯楽時代劇。舞台は江戸後期。場所は日本橋の長崎屋。牢を抜けた源内はここで隠れて暮らしています。
 主人公は源内でなく、源内の娘(原田知世)。老人に扮した山口崇が、老人なのにハンサムでかっこいいです(挿絵代りの写真が多数)。
 物語は、長崎屋でおこるあれこれを、面白可笑しく描いたもの。『天下御免』の、ほとばしるような批判精神は有りません。そして、『牢を抜けて長崎屋に隠れた源内』ということは、『天下御免』の続編というわけでなく、別の話です。
 混血児への差別や政治への批判も少し入っていますが、入れてみただけという感じ。この頃はそんな時代じゃなかったのでしょうね。
 
『源内先生舟出祝』/山本昌代/河出書房新社 ・・・1987年発行。女流時代劇作家27歳の時の作品。
 映画「居酒屋ゆうれい」の原作を書かれた作家さんの、源内の晩年期を描いた小説です。
 源内の心の闇と寂しさを描いた、小説としても骨太で厳しい作品です。
 私が今まで目にした源内関係のフィクションで、唯一、男色家である源内をきちんと描いたものでした。
 直武に片想いしているのに指一本触れられない、初老の源内が可愛いです。

『少年平賀源内』/木本正次/東都出版
 書籍としては昭和47年出版。本は廃刊になっていますが、作者のご家族がサイトにアップなさっていますので、読むことができます。
 許嫁が出て来ます。長崎から帰ると(都合良く)死んでます。
 源内、墓の前で誓います、「あなた以外の女はもう愛さない」と。・・・確かに女は愛さなかったかも。

『逢魔が源内』/菊地秀行/角川書店 ・・・2004年刊行
 SFテイストのエロ冒険活劇、みたいな小説。
 ふだんは人なつこくて明るくてみんなに好かれる源内先生。夕刻になると体を『何かが』乗っ取るらしい。ソレは、未来から来たモノか宇宙から来たモノか異次元から来たモノか。当時の江戸にないものも、今の地球にないものも、そいつは作ってしまったりするようです。
 男性向けのせいか、エロいです。男性作家の作品なので、もちろん女色です。
 江戸時代の話より、雑談みたいな現代の作者の話(編集とのやりとり)の方が面白い。
 表紙の源内のイラストが、「誰ですか、これ」という美少年ぶり。私は最初、源内の愛人でも描いてあるのかと思いました(笑)。

『源内化け猫暴き』/大沼弘幸&わたなべぢゅんいち/電撃文庫
 源内と玄白とか淳庵とかが出て来て江戸で事件を解決していくという内容。心理的な深さはありません。
 科学的推理と言いつつ、殆ど科学は使ってません。しかも、科学的と言いつつ、本当に化け猫が出てきます。
 電撃文庫ですから、内容もオタクっぽいです。言動や心理は、一般の感覚とは違っている気がします。
 ゲーム系文庫だけあって、首がびゅんびゅん飛び、血がびゅうびゅう出ます(笑)。
 ただ、このジャンルの長所である、久美沙織先生の本を参考に勉強したような達者な描写や語彙はみごとです。
 このシリーズはドラマCDも発売されていて、人気のある声優さんがたが、源内たちの声を当てているようですよ。

『GENNAI−明日から来た影』/松本零士/佼成出版社
 SFテイストのサイコっぽいファンタジーです。語り部の親友が作者のナルシズムさえ感じさせなければ、いいマンガだと思うのだけど。
 松本氏、船や飛行機やからくり機械の絵を描きたかっただけ?という気もしますが(笑)、源内の心情もなかなか切ないマンガです。
 この源内は女性恐怖症で、モテないわけではないのですが、いざとなると女が恐くなって着物を抱えて裸で逃げ出したりします。親友が「だから陰間茶屋通いなどと陰口を叩かれる」などと言っています。この源内はこれはこれで可愛いか、という気も。
 玄白が腑分けを見学した女が、かつて源内の好きだった女で、しかも親友の子供を孕んでいたという、なんというドラマチックさ!(笑) しかも玄白が超ハンサムというオマケ付きでした。
 老いてからの源内がきちんと初老に見えて、でもセクシーでそれなりにかっこいいのは、松本氏の絵が巧いのだろうなあ。
 劇中劇で『風流志道軒伝』がマンガ化されてます。この小説がマンガ化されるのは、たぶん最初で最後でしょう。

『非常ノヒト』全3巻/碧也ぴんく/新書館
源内を主人公に、少年時代からきっちりと心情を追っている少女マンガです。史実にもかなり忠実です。
晩年は精神を病み人を殺したと言われる、源内の修羅をじっくり描く、骨太のマンガでした。
とは言っても華やかな少女マンガです。こういう美形の源内を私は待っていました!頼恭様も田沼様も池田玄丈も(悪役でしたが)江漢も、玄白でさえ(こら)ハンサムでした。
私としては、淳庵(姓が中村になってた笑)が玄白のイメージに近いんですけどね。玄白は病弱だったそうなので。
このマンガは「鬼外シリーズ」のラストで、今までのこのシリーズは源内を狂言回しに不思議なストーリーが展開していました。

『小説平賀源内』/飯島耕一/砂子屋書房
 フランス文学などの研究で有名な、シュールリアリズムの詩人が、2002年72歳の時に出版した小説です。
 時代は学生運動盛んな安保の頃。一人の青年(直武の子孫だと思い込んでいる)が、汽車の中で源内に会ったり、角館や長崎で司馬江漢や当時の縁の人に会ったりして話を聞き、源内殺人事件や直武の死の真相の可能性を、色々と揚げていくという内容です。
 みんなが出て来て勝手に喋っていくのは、この当時(安保の頃)のアングラ芝居の特徴ですね。
 江戸俳諧の研究もしている人だそうで、確かにすごーく調べてありますが、小説なので虚実ごちゃまぜで、かなり都合よく虚にしてます。
<源内や直武の死の真相の可能性色々>などと書くと、興味を持ってこの本を読んでしまう人がいるかもしれないので、そういう人が時間を無駄にしないよう、その「色々」を揚げておきます。
 1 源内は創作の下書きを見られて怒って殺した。
 2 源内は、田沼意次の密書(蝦夷関係)を見られて殺した。これに秋田藩や直武もからんでいた。(他の人の研究書や小説でも、蝦夷調査だけでなく、秋田銅山と銀の調査のことや、開国の計画書(船の設計含)の説があります)
 以上2件は、別段新しくない提案です。以下は、私が読んだ本の中では奇抜と思いました。
 3 源内と直武で花魁を取り合った。源内は「女ギライ」だと言われるが、直武と同じ花魁を好きになった可能性が無いわけではないと書いてありました。根拠は書いてありませんでしたが(笑)。(菅原櫛で花魁が髪をすいて静電気を起こすのを見てエレキテル云々って。鬢付油まみれの花魁の髪で静電気が起きてたまるか)
 4 直武はキリシタンだった。なぜなら秋田には200年前にキリシタンが多かったから(それって理由になるの?)。源内は、直武が描いた聖母マリアの絵を人に見られたので殺した。まあこれなら、直武の変死は自殺か?ってことで辻褄は合いますかね。ただ、それだと、『解体新書』の表紙絵がアダムとイブと知っていたわけです。だったら、何らかの方法で阻止したと思いますよ。

『源内狂恋』/諸田玲子/新潮社
 源内の内縁の妻だった下女と源内との愛憎のどろどろの陰惨な二十年の物語。
 1954年生まれの女流時代物作家の2002年刊行の本です。
 源内ものには珍しく、玄白や田村先生は殆ど登場しません。ひたすら二人の昼ドラちっくなストーリーです。
 ということで、殺人の動機は「内縁の妻を久五郎(被害者)が後妻に欲しいと言ったから」です。
 ここでの源内はなぜか女色なのですが、理由は、「男色家であることをわざわざ戯作などで公表しているのは、本当は違うからだ」だそうです。理屈が通っていなくて意味がよくわかりませんが(笑)。
 それから、男色を、「隠すべきこと」ととらえている記述が有り、明治以降ならともかく、江戸時代中期にそりゃありえないと思いました。
 少年時代の源内(四方吉の頃かな)、あんころ餅をみんなでパクついてます。だーかーら、砂糖が一般化するのはもっと後だってば。確かに香川は江戸時代からお雑煮にあんこ入り餅を使ってましたが、それは砂糖作りに成功した後のことです。
 再仕官の1760年頃、下女の実家に挨拶に行くのに羊羹を持っていってますよぅ。当時、羊羹を口にしていいのは、上級の武士だけのはず。
 再仕官の時に、頼恭に長崎屋での自慢話をしてますが。長崎屋は辞職願提出後の出来事ですね。義弟の年齢も、源内と同い年として書いてありました。本当は、妹のりよと同い年でしょ。単なるミスですかね。

『平賀源内』/村上元三/東京文藝社
 この本は2002年刊行ですが、別出版社の本の再発売です。著作年は古いかと推察されます。作者は明治生まれの時代小説作家で、直木賞も受けた人です。
 源内の業績を適当に入れながら(ホントに適当なんです。皆さん絶対信じないで下さい)、適当に源内の半生(これもホントに適当でした。信じないように)を描いています。こちらは内縁でなく正式な女房がいます。田村先生の仲人で挙式してます。史実や周りの人たちに関する記述も嘘ばっかりなので、ファンタジーとして読んだ方がいいです。小説を面白くすめ為に嘘を書くならわかるのですが、単に「何も調べてないでしょう?」と思わせます。
 何を言いたいのか、何の為に書かれたのか、全くわからない小説でした。こういうのが娯楽時代小説と言うのでしょうか。
 源内の性格がとても爽やかな青年で、なにげに人助けなんてします。誰でしょう、これは(笑)。エキセントリックで厭な男に描く作家が多い中で、あたたかく優しく気骨のある性格は魅力的でかっこよかったです。けっこう嬉しく思いました。奥さんも、女性から見て、「あ、この人が奥さんならいいか」と思わせる、さっぱりした聡明な女性でした。最後は離婚しちゃうのですが、別れもあっさりしてます。
 ところでこの作家さん、時代小説の作家なのに、平気で「一時間」とか「気温が零度」とか出て来るんですけど。いいんでしょうか、これで・・・。

『大江戸フランケンシュタイン エレキの虹/まさきひろ/蝸牛社』
1994年初版のハードカバー。作者は、デジモンやガシュベルで有名な脚本家です。
源内には、「相良で生きていた」の他に「蝦夷で生きていた」伝説もあります。
その伝説と、その後の幕府の蝦夷開発やら死体蘇生(そこにフランケンシュタインの話題が絡む)やらイルミナティやフリーメイソンの陰謀やら、色々とてんこもりで知恵熱が出そうな、でもしっかりしたSF小説で、しかも史実もきちんとしている作品でした。
力作です。そして、かなり面白かったです。
主人公は一応源内なのかな?でも、物語の殆どは他人の視点で展開していきます。前半部分は桂川ブラザースが主役の感じです。
執筆に三年以上かかったと書いてありました。たぶん80%は調べ物に費やしたでしょう。時代小説の作家より、ライトノベルやマンガ家の人の方がきちんと調べ物をしている気がするなあ・・・。
松平定信が三代将軍の孫って書いてあったり(ほんとは八代の吉宗の孫)、「ロウテイキ」(量程器のこと)を方位磁石って書いてあったり、「惜しい!」って表記もありました。「きちんと調べて知ってはいたんだけど、うっかり間違えちゃった」感じでしょうか。もったいない。源内が獄死した時に淳庵は41歳ですが、老人とか書かれてましたが(笑)。
源内の殺人の理由は、画期的で、しかも納得のいくものでした。確かに、源内はここまで考えていた筈です!これは物語の発端になる部分ですし、これから読む人の為に内緒にしておきます。


★ 源内が全編通しての主人公というわけではないが、登場するフィクション作品 ★

『寝惚けて居り候−蜀山人の生きざま 源内の死にざま』/藤佳景/文芸社
 文芸社は自費出版の出版社なので、この本もそうかと思われます。内容を読んで「?」と思いましたから。
 タイトルに源内の名が冠してありますが、蜀山人のことを書いた小説です。書きたかったのも、蜀山人のことでしょう。
 源内もちょっとだけ出て来ますが、ちょっとだけです。

『源内が惚れ込んだ男−近世洋画の先駆者・小田野直武』/野村敏雄/プレジデント社
 作者は歴史物も書いていますが、麻雀小説で有名な人だそうです。
 直武の生涯を描いた小説で、角館の殿様との交流の他、源内や司馬江漢との交流も描かれています。
 源内の言葉が、讃岐弁でも江戸言葉でもなく、大阪弁なのが違和感がありました。少しえげつない感じがしました。
 でも、直武がイイコチャン過ぎて感情移入しにくいのを除けば、どの人物も魅力的だったかと思います。
 地元に取材協力してもらっているだろうし、角館のヒーローなわけだし、直武を人間くさく描くのは難しかったのかもしれません。

『水清くして』広瀬仁紀/双葉社・・・1990年刊
 田沼意次のことを書いた娯楽時代小説で、少し源内もでてきます。
 源内は、松平定信にハメられて殺人を犯したことになっていました。忍者のめくらましに遭ってと有りました。具体的にはどういうことなのか、何も書いてありません。何も考えてないと思われます。
 また、田沼が忍者を使い、彼らの秘薬で牢を抜けたことになっています。
 色々な部分がいい加減で(千賀道有の名が、後半では千賀道友と誤記されている)、間違いも多いですが(源内が二人殺したことになっていた。墓が浅草になっていた、など。源内のことは少しか書いていないのに、私が気付いただけでこんなに間違っている。ってことは、他の部分も信用できない)、何より小説とてして面白くないです。

『東西奇ッ怪紳士録』/水木しげる/小学館文庫
源内だけでなく、ヒトラー等の伝記マンガ集。源内の話は第一話〜第五話。
水木氏は、妖怪だけでなく、人間を描いても気持ち悪いです(笑)。
1シーンだけ、素敵だと思った絵が有りました。江戸の町を、春信の「清水の舞台から飛ぶ女」を模して源内が飛んでいます。
でもまあ、ストーリーの中では「奢る源内」を表現しているんですけど。

『銀魂』(ぎんたま)/空知英秋/集英社
テレビ東京系でアニメ放送もされている、ジャンプの人気マンガ。2007年現在、連載継続中。
幕末をSF化した舞台に、主人公・銀時が乗るバイクのメンテ役などで登場する「平賀源外」。
時代的には「からくりギエモン」にした方がいいと思う。メカが出てくると何でも平賀さんにしなくても。
でも、とても大好きなマンガなので、このマンガに平賀さんが出ていて、実はとっても嬉しい。

『風雲児たち』/みなもと太郎/リイド社
 有名なので、説明することもないか。源内の登場場面は4〜7巻くらい。
 世間の思う源内のキャラクターを壊すことなく、それでいてきちんと心情や苦悩まで描き、しかも短い登場場面に完璧に史実を盛り込んでいます。
 他の巻での(源内以外の登場人物の)エピソードに関してもそうですが、みなもと氏の構成力は天才的だと思いました。
 源内の資料調査に関しては、現在わかっていることでは完璧なのじゃないですか?マンガ的な演出で変えてある部分はあるけど。
 源内一人でもこうなのだから、これだけ多くの登場人物を描いているマンガですし、どれだけ調べているのかと思うと、気が遠くなります。もう、それだけで、みなもと氏を尊敬してしまいます。


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